太宰治賞

太宰治賞

 昭和39年に筑摩書房が創設した小説の公募新人賞で、吉村昭をはじめ、加賀乙彦、金井美恵子、宮尾登美子、宮本輝など多くの著名作家を世に送り出しました。昭和53年の第14回を最後に中断していましたが、三鷹ゆかりの文人たちの文化の薫りを継承したいと考えていた三鷹市が、三鷹になじみの深い太宰治の没後50年(平成10年)を機に、筑摩書房に呼びかけ、共同主催の形で復活しました。
 第21回太宰治賞受賞者の津村記久子さんは、第140回芥川賞を受賞し、第26回太宰治賞を受賞して小説家デビューを果たした今村夏子さんは、平成23年5月に同作品「こちらあみ子(改題)」で第24回三島由紀夫賞を受賞しました。また、第29回太宰治賞を受賞した岩城けい(受賞時はKSイワキ)さんの「さようなら、オレンジ」は、第8回大江健三郎賞を受賞しました。

 

第33回太宰治賞がサクラ・ヒロさん「タンゴ・イン・ザ・ダーク」に決まりました

 三鷹市と筑摩書房の共同主催による復活後19回目の「太宰治賞」の最終選考委員会が、平成29年5月8日みたか井心亭(せいしんてい)で開催されました。選考委員の加藤典洋さん、荒川洋治さん、奥泉光さん、中島京子さんの厳正な審査により、1,326編の応募作品の中から大阪府出身・神奈川県在住のサクラ・ヒロさんの「タンゴ・イン・ザ・ダーク」に決まりました。

写真:第33回太宰治賞受賞者のサクラ・ヒロさん
第33回太宰治賞受賞者のサクラ・ヒロさん

受賞作「タンゴ・イン・ザ・ダーク」

 N市役所のこども課で働く三川ハジメが、ある日目を覚ますと、妻のKの姿がない。Kは地下室にこもり、火傷をしたので顔を見せたくないという。不思議に思いながらもハジメはいつも通り日々を送るのだが、Kが出てくる気配はない。そのうちハジメはKの顔を思い出せなくなっていることに気づく。地下室から出てきてほしいハジメは、あの手この手で交渉するが、Kは『オルフェウス』なる自作のアプリゲームで高得点を取ることや、暗闇の中での合奏を求める。結婚当初はよくやったタンゴのセッションで盛り上がる中、ハジメはKとの失われた絆を思い出すのだが−−。

選考委員の評

 選考委員の加藤典洋さんは「今回も多くの応募作品があったが、全体として大きな曲がり角に来ており、今まで以上に著者の力量が問われていると感じた。本作はそうした中でも頑張った作品として評価できる」
 荒川洋治さんは「時代とともに文学性が薄れていく中で、物語に新しい人物像や人間関係が打ち出されていることが重要であり、本作には秀でた文章の才能を感じた」
 奥泉光さんは「小説としての人物造形と人物と人物との関係性が魅力を持った文章でリアリティーをもって描かれていた。謎めいた作品の終わり方からも作者の狙いを感じる。前回も最終候補作に残ったサクラさんの作品と比べて、今回の方が小説としての完成度が高いと感じた」
 中島京子さんは「主人公と妻との奇妙な関係を描く中で、現代の若い人たちの他人との関係性の持ち方や性関係の在り方を取り上げたことは注目すべきポイントである」と選評を述べました。

受賞者のサクラ・ヒロさんのコメント

 受賞の知らせを聞いたサクラ・ヒロさんは「今回は、最終候補作品として残ったのが2回目で、1回目よりは落ち着いた気持ちで結果を待つことができました。どちらに転んでも悔いは無いと思っていましたが、受賞の連絡を受けて、嬉しく思いました」と喜びを語りました。

第33回太宰治賞贈呈式

 平成29年6月13日に如水会館(千代田区)で行われ、正賞の記念品と副賞100万円が贈られます。
 なお、受賞作および最終候補作のすべてと選考委員の選評などを収録した「太宰治賞2017」を、筑摩書房から発売予定です。

【第33回太宰治賞最終候補作品】

選考委員(敬称略)

加藤典洋 <かとう のりひろ>
評論家。早稲田大学教授。東京大学卒業後、1985年、評論『アメリカの影』でデビュー。
1995年「敗戦後論」を発表し、話題となる。1997年『言語表現法講義』で新潮学芸賞、1998年『敗戦後論』で伊藤整文学賞、2004年『テクストから遠く離れて』と『小説の未来』で桑原武夫学芸賞を受賞する。他に、『日本風景論』『日本という身体』『日本の無思想』『小説の未来』『太宰と井伏』など著書多数。『考える人生相談』などエッセイも。
荒川洋治 <あらかわ ようじ>
現代詩作家・評論家。早稲田大学卒業後、1976年、26歳で詩集『水駅』を刊行しH氏賞を受賞。以後、詩のみならずエッセイや評論など幅広い分野で活躍している。1998年『渡世』で高見順賞、2000年『空中の茱萸』で読売文学賞、2006年『心理』で萩原朔太郎賞を受賞。また産経新聞紙上で長くつづけた文芸評論をまとめた『文芸時評という感想』で小林秀雄賞を受賞している。著書多数。
奥泉光 <おくいずみ ひかる>
小説家。近畿大学文学部教授。国際基督教大学大学院修士課程修了後、1986年に「地の鳥天の魚群」を「すばる」に発表してデビュー。1993年『ノヴァーリスの引用』で野間文芸新人賞、1994年『石の来歴』で芥川賞、2009年『神器』で野間文芸賞、2014年『東京自叙伝』で谷崎潤一郎賞を受賞。ミステリーの構造をもった長編小説を得意とする一方で、『「吾輩は猫である」殺人事件』など、軽妙なパスティーシュ小説も多い。
中島京子 <なかじま きょうこ>
小説家。東京女子大学卒業後、出版社で女性史の編集に携わった後、1年間のアメリカ留学を経てフリーライターとなる。2003年『FUTON』でデビュー、野間文芸新人賞候補となる。その後、三度、吉川英治文学新人賞候補となり、2010年『小さいおうち』で直木賞を受賞。2014年『妻が椎茸だったころ』で泉鏡花文学賞、2015年『かたづの!』で柴田錬三郎賞、『長いお別れ』で『中央公論文芸賞』を受賞した。最近著は『彼女に関する十二章』(中央公論新社)。

これまでの受賞作

第1回(昭和40年) 受賞作なし
熊田真記「寒い夏 一九六二年の想い出に」(候補作)
野淵敏「神話」(候補作)
第2回(昭和41年) 吉村昭「星への旅」
加賀乙彦「フランドルの冬」(候補作)
第3回(昭和42年) 一色次郎「青幻記」
金井美恵子「愛の生活」(候補作)
第4回(昭和43年) 三浦浩樹「月の道化者」
第5回(昭和44年) 秦恒平「清経入水」
第6回(昭和45年) 海堂昌之「背後の時間」
第7回(昭和46年) 三神真彦「流刑地にて」
第8回(昭和47年) 受賞作なし
第9回(昭和48年) 宮尾登美子「櫂」
第10回(昭和49年) 朝海さち子「谷間の生霊たち」
今村実「ついの栖」(佳作)
第11回(昭和50年) 不二今日子「花捨て」
第12回(昭和51年) 村山富士子「越後瞽女唄冬の旅」
田中水四門「私的調書」(優秀作)
第13回(昭和52年) 宮本輝「泥の河」
山口泉「夜よ 天使を受胎せよ」(優秀作)
第14回(昭和53年) 福本武久「電車ごっこ停戦」
朝稲日出夫「あしたのジョーは死んだのか」(優秀作)
第15回(平成11年) 冴桐由「最後の歌を越えて」
第16回(平成12年) 辻内智貴「多輝子ちゃん」
第17回(平成13年) 小島小陸「一滴の嵐」
第18回(平成14年) 小川内初枝「緊縛」
第19回(平成15年) 小林ゆり「たゆたふ蝋燭」
第20回(平成16年) 志賀泉「指の音楽」
第21回(平成17年) 津村記久生「マンイーター」
川本晶子「刺繍」
第22回(平成18年) 栗林佐知「峠の春は」
第23回(平成19年) 瀬川深 「mit Tuba(ミット・チューバ)」
第24回(平成20年) 永瀬直矢 「ロミオとインディアナ」
第25回(平成21年) 柄澤昌幸「だむかん」
第26回(平成22年) 今村夏子「あたらしい娘」
第27回(平成23年) 由井鮎彦「会えなかった人」
第28回(平成24年) 隼見果奈「うつぶし」
第29回(平成25年) KSイワキ「さようなら、オレンジ」
第30回(平成26年) 井鯉こま「コンとアンジ」
第31回(平成27年) 伊藤朱里「変わらざる喜び」
第32回(平成28年) 夜釣十六「楽園」
第33回(平成29年) サクラ・ヒロ「タンゴ・イン・ザ・ダーク」